置き配の題材は令和ホラー?
ykpythemind 今回はDeliveryっていう作品を公開しました。
⚠「Delivery」本編のネタバレが入ります
藤本薪 まず最初の作品(いんのこ)が記録映像、2つ目(土下座)がPOVと来たので、次はドラマが撮りたいねっていうところがありましたね。
トモヒロツジ 元々「Delivery」の撮影日には別の作品を撮るつもりだったんだけど、ロケーションの都合で延期になって。じゃあ今月は撮るのをやめるかどうかの瀬戸際で、すぐ撮れる別のプロットがあればそれにしちゃおうってことで。置き配の話がみんなの中でホットだったから、ま、これでいけるやろと。
ykpythemind 自分らの中でホットのやつを撮るのが1番いいんじゃねえかっていうね。
トモヒロツジ それは本当に思うね。土下座もそうだったもんね。
藤本薪 ふとした会話の中で、置き配されたときに、業者から届くメールに添付されてる、玄関前に荷物が置いてある写真みたいなのが怖いよねっていう話になって、確かに僕も不気味だと思ってたわと。
ykpythemind それで勢いで組み上げて撮り終えたわけなんだけど。撮り終えてから、そういえば置き配って結構近年の概念じゃない?って思いはじめて、どこまでこの話伝わるんだろうっていうのが今ちょっとビビってる。
トモヒロツジ 置き配もだし、ウーバーイーツとかも玄関前に置いていくようになったのは、本当にここ数年だもんね。コロナ以後ぐらい。
ykpythemind そっか、そっか、そういえばウーバーって手渡しだったね、そういえば。
トモヒロツジ やっぱあの頃はさ、飯を床に置いてかれるのはちょっと嫌だなみたいな感じだった。そういうのも最近はちょっと変わってきた感じはある。
藤本薪 確かに。親とかの世代とかこの映像見てもピンと来ないだろうなと思いながら作ってました。
ykpythemind ……実は僕ら、結構令和ホラーってものを作っている自負があるような気がしてきました。
藤本薪 まだ公開してない作品のプロットとかでもそういうの多いかも。
トモヒロツジ 僕らは「インターネット小道具」ってものを結構作っているなと思い始めてきているよ。そういうところも令和ホラーな部分だったりするのかも。
ykpythemind そうね。俺の本職がWebエンジニアってのもあって、その昔、HTMLメールを手打ちで作ってたみたいなのがまさかホラーに生きるとは......
藤本薪 土下座の時も動画再生アプリとか作ってたよね。
ykpythemind そう。デスクトップアプリで、起動するとあたかも監視カメラ映像が配信されているかのように動画を流すアプリを作った(笑)
トモヒロツジ なんか技術を持ってるからディティールをこだわれるっていうのは1つ強みだと思う。前回も、特殊メイクみたいな芸術的な方面には技術がないって話をしたけど、逆にIT的な技術は持ってるから、そこにはこだわれるっていう。
ykpythemind 「インターネット小道具」の観点で個人的に影響を受けたのが、「search/サーチ」っていう映画だね。PC上で通話したり検索とかしながら、人を探す映画なんだけど、結構サスペンスで怖いところがあって。
藤本薪 なんか最近増えたよね。パソコン上で通話して話が進む作品。
トモヒロツジ 「リング」※1 とかって、今同じものを見ても全然怖くないんだろうな。今だったらビデオを使って伝染するってのは多分実生活と少し遠くて実感が持てないから怖くなくて。時代に即した怖さ。つまり、ツールとそれの怖い見せ方ってのがあるんだなっていうのあるんだなって思った。今のベースでリング作ったら、ああはならないんだろうなって。
藤本薪 なんとね、新作の『貞子DX』※2 は時代に即して進化してましたよ(笑)
※1 『リング』は、1998年1月31日に公開された、日本のホラー映画。見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオテープ」の謎を追う、鈴木光司の同名小説『リング』を原作とする映画作品。 (Wikipedia日本語版「リング」 より)
※2 『貞子DX』は『リング』シリーズ第9作目として2022年に公開された映画作品。
ykpythemind (笑) ちょっと俺たち令和ホラーの第一人者としてやっていけるんじゃないでしょうか。
藤本薪 いや僕たちじゃ作れない気がする(笑)18歳ぐらいの子が作んないと。
ドラマへの挑戦
ykpythemind 今回初めてドラマ風のものを撮ったわけだけど。
藤本薪 「いんのこ」みたいな記録映像の「なんか偶然撮れたものだから」って前提の作品だと、絵が綺麗すぎると変になりそうだけど、ドラマだったらそれが許されるし、映像を作るっていう上での醍醐味をしっかり味わえた感じでしたね。
トモヒロツジ これはドラマ映像作品だって割り切ってたから、場所によっては彩度上げ気味にしてみたりとか、そういう調整もできたから、面白かったね。
藤本薪 映像作品作るのは本来そういうところから始めるんだろうけどね。
ykpythemind でもin-factoはある意味こう、僕らが成長していく物語だから(笑) 映像を撮るステップアップとしてはすごく良かったと思います。藤本くんが作ってくれたカット割り良かったし。あとツジのカチンコがめちゃくちゃ助かった。
トモヒロツジ あとは、まあ、やっぱカット数増えてくると、その進行管理はしっかりしてなきゃいけないなと思ったから、今回はそこもしっかり考えました。
ykpythemind とかいいつつ置き配の画像を作るところでPhotoshopいじるのに2時間ぐらいかかった時は、マジで心折れそうになってた(笑)
藤本薪 演出についてだけど、僕が作った絵コンテに関しては最小限の情報で出すところしか考えてなくて、すごいプレーンなものを作ったと思ってる。語弊があるかもだけどこだわりがない。
ykpythemind 画の割り方とかは、藤本くんっぽさが出てる気がするんだけどね。
藤本薪 僕のポップ論みたいなとこだと、主人公への感情移入が話を伝えるために必要なもので。そういうストーリーテリング的なものを僕はすごい大事にしていて、それが絵コンテで出てたのはあるかも。
トモヒロツジ エレベーターが上がっていくシーンで、扉が開いた先に化け物がいるかもしれないっていう不安な状態なのに、扉の外側から写しちゃったらネタバレにならない?っていうのを藤本くんはすごく気にしていたよね。今回に関しては、俺とユキト(ykpythemind)はどちらかというと絵としてかっこいいものが良くない?となってそっちに倒したけど。
藤本薪 そうだね。編集してみてそのソリッドさみたいなのは理解したよ。
トモヒロツジ 藤本くんの絵コンテって、顔のアップを結構使うんだよね。顔アップって役者の表情が難しいし、自分だったらあんまり使わないかも。そこは藤本くんの感情表現や、主人公への感情移入みたいなのを優先しているんだなって思った。
ykpythemind 今回はそういう感情的な動きも少し含めることができて、純粋にドラマっぽいものが撮れたなっていう感じだよね。
トモヒロツジ 毎回自分たちの映像が出来上がってきて思うんだけど、やっぱりこうちょっとドライな質感になるんだなと思った。
ykpythemind だけど、まだ役者が絡み合うことでの変化みたいなのが生まれてないよね。本来その絡みでウェットになっていくはずだけど。
トモヒロツジ 確かに。
ykpythemind 会話シーンがね。今までないんですよ(笑)1度も撮ったことないんですよね。偉そうに映像のことを語ってますが(笑)
トモヒロツジ いや、でもなんかさ、役者が増えるとさ、指数関数的に変数が増えるじゃん。それを今はまだ、まとめきる自信がないんだなって思ってる。
独白はチート?
藤本薪 役者が僕一人だし、今回、モノローグ(独白)っていう形式を使ってみたわけだけど、チートだなって思った。
トモヒロツジ うん、独白させるだけで詰め込める情報量が桁違いだった。だからそれに頼っちゃうと、多分つまんなくなっちゃうんだろうなって。
ykpythemind ラジオみたいになってきて、映像が要らなくなってきそう。
トモヒロツジ 割と人気が高かったなろう系のアニメを見始めたら、主人公がめちゃくちゃ冒頭から語り出して、つらくてやめちゃったんだよね。「自分はトラックに引かれて、こういう世界観の異世界に転生して、今こういうことを考えて…」みたいな。これを全部喋って説明すんのはちょっと怠慢じゃない?って思ったり。
藤本薪 でもコントとかでも、「よし映画見に来たぞ。この映画面白そうだし、楽しみだな」とか言って始まるじゃん。
ykpythemind 一旦見る側の感情を作品に強制転移させるみたいな技術だよね。
藤本薪 そう、それはそれで良い技術なのよ。今回はドラマというよりは、もしかしたらさ「ほん怖」※3 とかの再現VTRっていう形に近いのかもしれない。再現VTRって、めちゃくちゃ詳細の設定の描写はいらなくて、怖いところだけをやらなきゃいけないから。
※3 『ほんとにあった怖い話』
ykpythemind 俺たちはまだドラマを撮ったわけではないかもしれない……。
本業を活かして...
藤本薪 そういえば曲を作りましたね。
ykpythemind 藤本くんが、初めのシーンはBGM入れたいよねみたいなことずっと言ってたんだよね。
藤本薪 うん。音楽のあるなしがドラマで大事で、記録映像とかの映像作品とは違うところだ、と思ったから。
トモヒロツジ なんか入れたいと思ってたけどこれだってものをネットで見つけられず、ちょっとリファレンス引いてみるかって適当に調べて1番上に出てきた映像見たら、モノローグにピアノのシンプルな構成で。でも、これぐらいなら音素材を探してくるよりも、作った方が早くないってなって、その場でユキトが鍵盤を弾き始めて、作った。(笑)
ykpythemind あれ、ほんとにすごいよね。
トモヒロツジ このメンバーだからできる作業だったよね。
ykpythemind まあみんなバンド友達だし。音に関してはマジで任せろ、みたいな。ナレーションの録り音も良いし(笑)
トモヒロツジ 今回初めて取り入れたBGMを、最初と最後に入れられたっていうのが、すごく全体の物語の一貫性が出たなと思ってる。
藤本薪 最後もBGMで締めようってなったとき、いやいや、それはちょっとなあって思ったけど、やってみて音楽の力感じたよ(笑)
ykpythemind まあ、ちょっとね。毎回毎回曲作ってたらもうやばいことになってしまうのだけど(笑)
トモヒロツジ 前回の土下座が反響よくて不安だったところもあるけど、色々新しい試みもしつつ自分らなりに満足できるものができました。それではまた次回。
2022/12/05 収録