in-facto

土下座の撮影とフォーリー録音

脚本の初期衝動と計画性

ykpythemind 今回は、「土下座」っていう作品を撮ったわけだけど。

トモヒロツジ まあシンプルにめっちゃ大変だったね(笑)

藤本薪 僕らの感想としては「大変だった」と。みんなはどう思ってる?

トモヒロツジ 結果としては、最初にイメージしていた気持ち悪さみたいな部分はある程度落とし込めたんじゃないかなと思ってるかな。

藤本薪 藤本的にも、確実に新規性があるものだなっていう風には思ってる。土下座というポーズや文化の気持ち悪さという目の付け所に新規性があると感じたから、やってよかったなって思ってる。

トモヒロツジ ユキト(ykpythemind)的にはどうだった?

ykpythemind なんだろう。撮ってる時は結構不安だったね…。藤本くんが映像暗くね?って言い出したタイミングで1回俺の心が折れるところがあって(笑)

トモヒロツジ うん、ちょっとね。一瞬やばいなってなったね(笑)

ykpythemind その近辺、明らかに心折れてて微妙にカメラのピント合ってないんだよね(笑)すんません。でも、その後の編集でカットの繋がり方とか音が合わさることでこんなにまとまるんだっていうのがかなり衝撃的だった。

トモヒロツジ 「繋がる」っていうところが今回ミソなところかなと思っていて。 前回の映像 が言ってしまえば、ほぼワンテイクを編集した体の作品だったけど、今回は脚本を組んだ時点でシーンが7つくらいある。かなりの数の分断された映像を撮らなきゃいけないし昼も夜もあるから撮ってるときは事前に書いた脚本を信じるしかなかった。

ykpythemind マジであれが地図みたいになったよね。

工程表兼台本を作っておかないと詰んでいたと思われる
工程表兼台本を作っておかないと詰んでいたと思われる

ykpythemind そうやって結構しっかり工程表作った割に、もともと脚本が生まれてこれを撮ろうってなったきっかけは結構衝動的だった気がする。

藤本薪 そうそう。ユキトがお辞儀のアイコンが嫌だとか言い出して。

ykpythemind あの、bow って打つと出てくる、ぺこりってお辞儀してる感じの絵文字がさ。(注釈: 🙇) 結構土下座みたいに見えて、その絵文字をLINEとか仕事で多用されると時によってはめっちゃ煽りみたいに見えるときがあって。その話をin-factoでしたら、土下座してる人って怖くない?みたいになった記憶ある。

トモヒロツジ 最初は、街灯がいくつかポツポツあるような道で、その街灯ごとに土下座してる人がいたら怖くない?みたいなのが始まりだったね。

ykpythemind どのロケーションが道に均等に電柱が並んでて土下座がキモく撮れるんだろうってなってGoogle ストリートビューでロケハンしだして(笑)あとLINEの通知で、あの土下座絵文字が大量に送られて来るのとかキモそうとか。

藤本薪 その土下座ネタが盛り上がって種みたいなのがパラパラできたんだけど、なかなか方向性がまとまらなかった時に確かツジくんが、実は道で土下座してる人は土下座をしてるんじゃなくて、土下座しないと見えないものを毎日見てるとかで、例えばそれが白骨化した死体とかだったら怖いよね、みたいな話になったね。

トモヒロツジ 学生の頃、自分自身見に行ったこともある有名な廃墟があって、そこで白骨死体が見つかったってニュースが出たんだよね。その直後くらいに2chとかで、「誰が通報したんだよ」みたいな感じでちょっとにぎわったらしくて。それってみんな白骨があることを知りながら敢えてそれを表ざたにせず見に行ってたってことだと思うんだけど、それ結構怖いことだなと思って。日常のワンシーンも視点を変えるとそういう怖いものがあったらやだなと思ったんだよね。

ykpythemind 盛り上がった熱いやつの衝動をそのままなんとかパッケージングした側面がありつつ、脚本自体は何回か練ったみたいな背景があって。ホラーというか謎解き要素がある作品かなと個人的に思ったりする。

登場人物のペルソナやビジュアル

⚠以降に「土下座」本編のネタバレが入ります

トモヒロツジ 藤本くんと脚本を練ってて、なるほど。って思ったのが、藤本くんが土下座役をやることになってからその土下座役の人としてのペルソナとかの作り込みをすごい気にしてたなと思ってて。自分は脚本の原案を書いた時にはその人の背景とかはどうでもよくて、その行動1つ1つが結構気持ち悪ければ成り立つと思ってたから。

藤本薪 多分良し悪しじゃないんだけど、ツジくん的には行動とか起きる現象に対しての気持ち悪さみたいなのが主な感じだったから、逆に僕はバックボーンっていうか背景とかが匂ってくると一貫性みたいなのも生まれると思うから。主人公がどんな仕事してるのかとか、土下座は土下座してる以外の時間何してるのか、みたいなことがすごく気になってた。

トモヒロツジ 制作時によく出てた話としては、「これは説明として不足してるから、見る人がその部分で気持ちが離れちゃうんじゃないか」みたいなことを藤本くんは気にしてたよね。

藤本薪 POV (注釈: Point Of View. 主観映像のこと) だし、基本的に主人公が何をしようとしてるかが常に分かってないと嫌だなって僕は思うタイプで。

ykpythemind 昼になって監視カメラを仕掛けに行くところで、このシーンって監視カメラ仕掛けてるんだ、ってわかるまでが結構時間あるんだよね。だから説明的に「よし、じゃあ仕掛けに行くか」みたいなセリフを暗転部に挿入すべきか否かを結構話した気がしますね。

トモヒロツジ で、まあ結果としては入れなかったんだけど、ま、そういうのがどれぐらいあるんだろうみたいなのはちょっと気になるね。見た人はちょっと感想として教えてほしいです。

ykpythemind そういえば、藤本くんがずっと「自分の骨格が気に入らねえ」みたいなこと言ってたよね。

藤本薪 あ、そうそうそう、僕はなんかお化け役できないなって、今回すごい思いました。怖くないんだよね見た目が。顔と体がかわいいってことかも。(笑)

トモヒロツジ 一般的に不気味な人ってなんか細長かったりとかそういうイメージがあるもんね。

藤本薪 だから衣装とかメイクとかビジュアルをもっと突き詰めていくことも、今後の課題かもしれない。

ykpythemind 美術系の部分をまるっとサポートしてくれるみたいな人がいたらめちゃくちゃ面白くなりそう。

立っている藤本くん
記念撮影。藤本くんは十分怖い

トモヒロツジ ビジュアルは全然まだ僕らは掘り下げれてないというか。自分たちである程度知見があれば、それなりに作り上げられるんだけど、本当に知見がないから、そもそも出すことができない。

ykpythemind よし、美大受験します。

トモヒロツジ 美大なんだ。どっかのインカレサークルの映像研究会とかに入ろうかな。

ykpythemind ツジが入ってくるの考えるとマジホラーだな。

藤本薪 嫌な先輩が来るやつね。

トモヒロツジ 「嫌な先輩」っていう新しいホラーだね。

藤本薪 嫌な先輩って嫌だもんね。

トモヒロツジ 嫌な先輩って嫌だよね。

音へのこだわり

トモヒロツジ 前回は記録映像風だったけど、今回は映像作品っていう意味合いを強めたかったから、音の部分にこだわりがあるよね。

ykpythemind そうだよね。録りきれなかった音を後からレコーディングして足したのと、Splice(注釈: 音楽制作などで使われる、定額制の音源ライブラリ)のサンプルパックの効果音を足したっていうところだよね。

藤本薪 効果音、あれね。フォーリー録音っていうやつね。砂利が入ってるものを転がすと海みたいな音が作れるとか。

ykpythemind 俺の家の下で、歩いてる音とか、走ってる音とかをわざわざ録音するっていう。しかも砂場とコンクリで分けて。めちゃくちゃ大変だった。

トモヒロツジ Spliceのサンプルパックを探す方が明らかに大変だっていうものを、自分らで録って賄ったって感じよね。

ykpythemind Spliceのサンプルパックの音も、その作者によって、僕らに合う合わないとかあって気づきだった。洋画っぽい、めちゃくちゃアグレッシブなあのホラーの音みたいな。人切った時、本当にこんな水分の音するのかよ(笑)っていう。

藤本薪 「フォーリング・デッド・ボディ」みたいなすごい名前のサンプルあったよね(笑)

ykpythemind 僕らが作った音もね、いつかサウンドパックとして出せるといいねみたいな話になったよね。

トモヒロツジ えっと、土下座するときの音は僕が地面を殴った音なんだけど、あれを「カースド・ヘッドバット」って呼んでたね。「呪われた頭突き」って(笑)

 効果音「カースド・ヘッドバット」はツジが地面を殴った後、サブベース等を足して完成した
効果音「カースド・ヘッドバット」はツジが地面を殴った後、サブベース等を足して完成した

藤本薪 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では爆発音に犬の鳴き声を混ぜてるっていう話があって、ちょっと僕らもそういうのやってみようってことで、一部の音に実は人の声を混ぜてみたりみたいなこともしたよね。

ykpythemind 実は全部の頭突きに聞こえないレベルで辻の声が入っていて、クソキモい。

トモヒロツジ らしいです。突然キモい声出してって言われて、レコーディングさせられたやつが入ってるらしいです。

ykpythemind 藤本くんが、それが呪いを込める作業みたいなこと言ってたよね。

藤本薪 チョコレート作る時にね、血を一滴入れるみたいなそういうやつ。

品質 vs 機動力

ykpythemind 今回撮った場所は本当に暗くて、僕が持っているカメラでは撮りきれないところがありました。

藤本薪 機材的なところではカメラがネックだったけど、照明に関してはまだできる余地があると思ったかな。本当のプロの人とか多分照明に凝るんだろうなって思った。絵作りみたいなところ。これやり出したら時間かかるから避けてるとこあるかもだけど、ワンカットワンカットが美しいみたいな完成度に向けてはまだまだできるところがあるなって思います。

ykpythemind 僕らがもう、3人だと仲間が足りなすぎます。

トモヒロツジ 3人で機材持ち運びしたり、ライト当てたり、装備にも限界があるなとは思う。

ykpythemind 音声とかも専門で録ってくれる人がいるに越したことはないけど、まあコンパクトに撮れるってのは、個人的には気に入ってるところでもあるよ。

トモヒロツジ ね、そうなんよ。これが例えば5人10人のチームになってくると、こんなに小回りきく制作は多分できないだろうなって思ってるところ。

藤本薪 自分も、限られた装備と人と技術でやるみたいなのは、まあ悪いことじゃないと思ってるけどね。

トモヒロツジ その限られた中でその色々詰め込んでいくっていうのは全然楽しいし、方向性間違ってないと思うけど。やっぱ欲が出てくると、いろんなところが目についてくるよねっていう。

ykpythemind まあね。今後もホラーを撮って行きますが、僕らのクオリティの向上やら何やらをお楽しみに。

2022/11/08 収録

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