in-facto

in-factoとビーフシチュー。メリークリスマス。

つらくなるものをエンタメに

ykpythemind 天使化」 はいつもとはちょっとテイストが違いましたね。

トモヒロツジ そうね。

藤本薪 一言で言うと、陰湿。

トモヒロツジ 撮ってる最中に何回か、陰湿すぎてみんな最後まで見てくれないんじゃないかって不安になりましたが、皆さん最後まで見てくれましたか。正直今までの制作物すべての中で一番親に見られたくないんだけど、俺は親にTwitterを捕捉されてて、Twitterで告知をしなきゃいけないから、まあ推して知るべしといった感じ。

藤本薪 そこまでいったら親もなんも言ってこないだろうなあ。

(ちなみに上記の告知用ツイートには特別短編が付いている。) **⚠ 以降に「天使化」本編のネタバレが入ります**

ykpythemind 全編において、固定のカメラから撮ったっていう作品で、永遠に閉鎖空間の中にいるんだけど、その中で話を展開するって結構大変だったよね。

トモヒロツジ とにかく1視点しかなくて、説明をできる要素もないから、映り込むモノの分かりやすさと、演技とかでどんだけ説明の薄さをカバーできるかってとこだったかも。

ykpythemind あれはどんなエンドなんですか。あれは、ハッピーエンドですか?(笑)

トモヒロツジ 一応プロット書いてるのが自分で、どこまで明言した方がいいのか迷うけど、主人公目線から言えば、やっぱりハッピーエンドではないのかなっていう感じだよね。

藤本薪 うん。まあちょっと、主人公の意図した通りには物事が進まなかったですね、みたいなね。

トモヒロツジ 本当の最初のプロットはユキト(ykpythemind)のなんだけど、それは主人公が何かしらの儀式の材料にされて終わるみたいな感じで。

藤本薪 主人公が完全に被害者だった。

トモヒロツジ そこに俺が即身仏の話を持ちだして。

藤本薪 そうそう。

トモヒロツジ 即身仏って昔、お坊さんが木の桶に入って地面に埋まってそのまま餓死して世の中の平和を願う的なやつなんだけども。実はその木の桶を開けてみると、爪でひっかいた跡や苦しんでた形跡が見つかることがあったって話を聞いて。

ykpythemind いや、怖いよね。もうお坊さんなんて、ある意味恐怖のプロフェッショナルじゃない。その人がすごく後悔したのかなぁとか思うとさ。

トモヒロツジ それで、最初は信仰100パーセントの気持ちで入っていくけど、だんだん根源的な恐怖に負けていくみたいなストーリーがいいんじゃないかっていう。

藤本薪 俺に任せろ、みたいな頼もしい人がボロボロになるって1番最悪で良いと思ってる。

トモヒロツジ 今まで公開した3作品は、映像を見続けさせるためのある種、清潔さみたいなものは多少意識したんだけど、今回はもう言ってしまえば、とにかく悪趣味だな。

ykpythemind 人が苦しんでるのを見るのは結構心に来るものがあるよね。

藤本薪 ある種、あんまりエンタメじゃないってことなのかもしれない。

ykpythemind でも、ホラー映画って、エンタメな要素もあるし、非エンタメな部分が逆にエンタメでもあるみたいな、矛盾した二つの構造があってさ。今回はちゃんと非エンタメの作品ですよっていう気がする。

トモヒロツジ あー、そうそう。あの、へレディタリーのあの妹のシーン ※1 とか。

※1 『ヘレディタリー/継承』(ヘレディタリー/けいしょう、Hereditary)は、2018年のアメリカ合衆国のホラー映画。監督はアリ・アスター (Wikipedia日本語版「へレディタリー/継承」 より) 妹のシーンの詳細は映画本編をご覧ください…。

ykpythemind 朝に母親が気づくやつね。あれ、ほんとに衝撃だった。

トモヒロツジ あれ、相当陰湿な作りだったよね、あれ。エンタメではない(笑)

棺桶を作ろう

ykpythemind 初めに棺桶に入ってるみたいなのを思いついたのは、フォビア っていう恐怖症をテーマにした短編ホラー漫画がきっかけだった。その中に、棺桶に閉じ込められて怖い思いをして閉所恐怖症になっちゃうみたいな話があって。その見開きの部分で思いついたね。

フォビア (ゴトウユキコ/原克玄)
フォビア (ゴトウユキコ/原克玄)

藤本薪 あとプロット見て、「リミット」って映画を勧めたね。

ykpythemind そうそう。起きたら棺桶の中で土に埋まってて、役者が一人芝居してずっと棺桶の中で話が進む映画。すごいなと思ったのが、画を飽きさせないようにめちゃくちゃいろんな構図で撮ってるとこ。

藤本薪 見てる時は何にも思わなかったけど、複数の棺桶を用意しないと絶対撮れないよね。

ykpythemind そう、この画角だと、絶対足の方は閉じずに開いてるんだろうなとか、頭の方に余白があるんだろうなとか。

藤本薪 それが今回の撮影技法みたいなところでヒントになった。

ykpythemind 「天使化」の撮影は棺桶勝負でしょ!ってことになって、作れば勝ちだってなってた。

トモヒロツジ 棺桶作るのはいいんだけどどこに置いて撮影するのよってなってるタイミングで、ちょうど俺が引っ越しして(笑)家が空いたんだよね。荷物が何もない前の家が使えるタイミングで、撮るしかないなってなった。

ykpythemind 俺と藤本くんが木材買いに行って、ツジの家で組み立てて...

カメラを設置するために脚の部分は開いている構造になっている
カメラを設置するために脚の部分は開いている構造になっている

トモヒロツジ もぬけの殻の部屋で撮ったのは良かった。結構反響があるから、棺桶の外は結構広いスペースの室内っていう設定をうまく音で表現できた気がする。

生肉食うだけの話

トモヒロツジ 今回は自分が主演なんだけど、正直、演者としての視点ではあんまり苦労したとこなくて。

藤本薪 ほんと?(笑)

ykpythemind なんか肉食ってたじゃん(笑)

トモヒロツジ あんなのね、言ってしまえば、生肉食うだけの話だから。別にそんなに…。表情とかの演技を必要としなかったから。

ykpythemind そんなことないよ、してたよ普通に。

トモヒロツジ 自分的には演技をしなきゃって感覚はあんまなくて。各フェーズでの感情の動きが分かってたから、それを頭において自由演技で突っ走っただけだった。

藤本薪 芝居じゃないけど、演技だね。ロールプレイ。ちなみに、肉ではその後体調崩したりとかはしなかったですか?

トモヒロツジ 全然大丈夫です。

ykpythemind あれ、なんかウイスキーで口洗ってたけどさ。あれ、後々から思い返してもさ、なんも意味ないと思うんだよね(笑)

トモヒロツジ まあまあでもアルコール度数40パーあるからね。

ykpythemind うん……?

トモヒロツジ さすがにちょっとスピリタスとかで口をゆすいだりするのは、あの後撮影に響きそうだったから。

藤本薪 イソジンとかでよかったんじゃない……?

クランクアップ後のツジ。元気でよかった。
クランクアップ後のツジ。元気でよかった。

ykpythemind そういえば、肉にイチゴのジャムとかつけてなかった?

トモヒロツジ そうそう。肉自体に質感を出すために、イチゴのジャムが塗ってある。最初試しにプレーンの肉を口に入れてみたんだけど、何も味がしなくて。本番ジャムありにしたらイチゴの味でめちゃくちゃよだれ出てきて、食ってる時の水っぽい音みたいなのを全部カバーしてくれた。

ykpythemind もうあれだね……美術さんがいなかったら本物使うしかないっていう……

トモヒロツジ そうそう。

ykpythemind 茹でたり蒸せばいいやんって言ったんだけどな。

トモヒロツジ ダメダメ。

藤本薪 肉や箱も含め、小道具を頑張った撮影ですね。

ykpythemind ちなみに撮影に使った肉は僕らが撮影後に夜通し編集しながら、ビーフシチューを作って全て美味しくいただきました。

ビーフシチューは調理してる途中の写真だけが残っていた。
ビーフシチューは調理してる途中の写真だけが残っていた。

トモヒロツジ これも肉自体も実はちょっとこだわりがあって。

ykpythemind はい。

トモヒロツジ 劇中の肉は人の肉っていう体なので。おそらく筋っぽいはずだし、脂肪もそんなについてないはずだから、結構赤身っぽいはずだよねとかいうので、色々考えて。

藤本薪 牛スネ肉をハナマサで買ってきたと。

トモヒロツジ ビーフシチューにしたら普通に美味しかった。

第一章の終わり

藤本薪 今回で一旦、in-factoシーズン1の第1章が終わったみたいな位置づけでいます。

ykpythemind ネトフリとかのドラマ見てても、シーズン1で大体登場人物が出揃ったくらいのところまで来た感じです。

藤本薪 いんのこ」はエピソードゼロみたいな感じがあるから抜くけど、POVの「土下座」、ドラマの「Delivery」と来て、記録映像の「天使化」。この3種がホラー映像のフォーマットのベースだと思うから、1周したタイミングかなと思ってる。

ykpythemind 俺たちの中でも表をつけてるんだよね。プロットの一覧をスプレッドシートにまとめていって、これはどのジャンルだっていうのを分類してて。

トモヒロツジ もうちょっと数で揃ってきたら、属性として偏らないように、マッピングとかもしながら色々考えたいよねって話してる。

ykpythemind まあ今後、大きく変えたいところはまあ、やっぱこう役者さんをうまく起用して。女性とか自分らではできないようなものを作っていく挑戦にもなるのかなと。

トモヒロツジ そこらへんも、今以上に前準備に時間をかけて、早い段階から話を進めなきゃいけなくなるとは思ってるから、自分らでも出演しつつ、役者としても友達なりに頼むなりで少しずつ世界観を広げていくのかな、っていうイメージがある。

ykpythemind いやあ、大変だね。

トモヒロツジ 今結構スケジュールギリギリなんですよ(笑) これを数本分貯めて数ヶ月先を見据えて、数本平行で動かさなきゃいけないとかなってくると、普通にキャパを超えてくる可能性が。

ykpythemind 俺たちはまあ、やればできるよ(笑)

トモヒロツジ 僕らの友達の皆さんぜひ興味がある方は、ご応募を...。

藤本薪 今はまだ友達じゃなくてもね。

トモヒロツジ 今までの作品はつまるところ「怖い」シーンしか撮っていなくて。それは料理で例えるなら肉を焼いただけ。「怖い」っていう素材の味だけで走り切ってる。それを今後、より映像として完成度を上げてビーフシチューにするためには、「怖い」以外のシーンも入れて、もっと映像としての深みを出していかなきゃいけないのかなと思ったね。

ykpythemind 要するに、肉をビーフシチューにするためには玉ねぎが煮詰まったコクとかジャガイモの食感とかそういうのが必要になってくるってことだよね。肉焼いただけでも良いのはホラーのいいところだけど。だからこそ、コクを出す一つの方法として、いろんな人を巻き込みながら作品を作っていければなと思います。

トモヒロツジ そういえば公開タイミングがバッチリ最悪になったので。皆さん、良きクリスマスをお過ごしください。

藤本薪 メリークリスマス、メリークリスマス。はい。

トモヒロツジ 僕毎回in-factoの作品はプレミア公開をリビングで奥さんと見ているんですけど、今回は見ないかも。クリスマスの0時にすごい空気になりたくない…。

藤本薪 見てください。

ykpythemind たまたま題材も、天使化っていう、それっぽい響きのやつになったしね。

トモヒロツジ それではみなさん。来年もin-factoをよろしく。

2022/12/21 収録

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