in-facto

むき出しの海

海鳴り

ykpythemind 来ました。じゃあ、今回撮った海について話しますか。

osd はい、お願いします。

ykpythemind 今回はosdくんが死ぬほど死にそうになってましたね。もはや死んだかもしれない。

osd いや、すごかったですね。なんか今まで感じたことのない感覚というか。外海って言うんですかね、開けている太平洋側の海に行って撮影をしたんですけど。海鳴りって言うんですか。あれを本当に体で感じたというか。

ykpythemind 台風が近づいている中、なるべく避けるようにとある海岸に行って。車から降りたらなんか、地球バグったみたいな感じになってて。

osd 海に近づくにつれてめちゃくちゃガスってて、明らかに雰囲気おかしい感じだったんですけど……。

ykpythemind 初の撮影中止になる可能性すらあったもん。

osd ありましたね。

ykpythemind 海って綺麗なもんじゃねえなっていう。

osd そうっすね。人間の力で制御されてないむき出しの海を初めて感じて、すごかったです。

トモヒロツジ 深きものは海から来るってのは、そういうことだよなっていう、場の力というか。

ykpythemind そうそう。

トモヒロツジ そもそも今回なんで海に行ったかということで。割と直前まで海で撮る別軸の話を考えてて。いつもと違った作り方で、怪談をベースにした語りが多くなりそうな作品だったんだけど、結局テキストからの映像化っていうところに足掛かりが足りなくて、ちょっと映像として起こせないみたいな話になったんだよな。

ykpythemind これはこれでテキストで出した方がいいじゃんみたいな感じになったとこはあった。でもどちらにしろ海に行くことだけは確定してて。

osd 結果として、怪談話すどころか、セリフが1つもない真逆の映像になりましたね。

トモヒロツジ ま、やっぱ直前で考えてるからこそのソリッドさというか、直前だからこそ、もうロケーションのパワーに全振りしてやってみようと思っていたところがあったから。 結果として、その思惑が当たってなんとかなったのが良かったところかもしれないな。

ykpythemind そうだね。やりきるというか、その場で作りきるみたいなクリエイティブさがあって。脳の開き方がすごかった。

トモヒロツジ 割と場所依存の脚本だったし、色々準備していったもののうち半分ぐらいしか使ってないからね。 元々イメージしてたものよりも場所の圧力や威圧感みたいなものにフォーカスした方が今撮るべき映像なんかじゃないかみたいな話になって、ストーリー性を感じる部分を極力排除していったというか。現地でタブレット持ち出して絵を描いて、作戦練り直したのはたぶん初だね。

ykpythemind これで、今回の「海」が意味がわからないと言われても、別にいいって思える自信を持てる。俺たちの日記みたいだから、あれ(笑)

osd 自分たちの心象風景が出てる。海での絵を想像しながら、これがこうあったら嫌だよねみたいなのを話しながら組み立てていったのありつつ。現場行ってもう1回再考して、1番いいものを組み立てるみたいな。

ykpythemind 怖い場所とかってやっぱ行かないといかんなっていう。

osd いや、そうっす。

トモヒロツジ 結局今まで作ってたものはフェイクだったという。リアルには勝てなかった。映像から殊更に出てるわけじゃないと思うけど、俺らとしては間違いなく体験として怖かったっていう。

osd いや、ほんとに人生で1番怖かった。忘れられなすぎる。

海鳴りが聞こえる気がする
海鳴りが聞こえる気がする

開かれたSkinamarink

ykpythemind なんか3人ってすごいな。3人いるとなんか撮れる。

osd 確かに。

ykpythemind マジで全員でやってるなと。

トモヒロツジ だんだんこう、撮影のスケールが大きくなってきたのもあるけど、もう3人いないと回らない。

osd あんまり超えられない壁がある。

トモヒロツジ 最近はユキトとosdくんが映像の音と画を撮る方向に集中しなきゃいけなくなってきてるから、そうなると多分、そこに属してない人間がいないと撮影が回らなくなるとかもあるような気がしてて。

ykpythemind 多分そう。撮ることに集中しすぎてて重要なものを見逃すみたいなのは全然あると思う。

トモヒロツジ 撮影のメインと撮影補助とオブザーバーみたいな立ち位置があって、1人は常に俯瞰して見てるというか、第三者的に見てるみたいな。結果今3人でちょうど良いというか、最小構成。

osd そうですね、ミニマムすぎ。

ykpythemind 今回、演出とか撮影のこだわりポイントあんのかな。

トモヒロツジ こだわりというか、今回はオマージュ元が結構強固だっていう ところの話なのかもしれないよね。Skinamarink がないと多分こうはならなかっただろうっていう撮り方が色々あるような気がする。

Skinamarink / 2022年公開 カナダ
Skinamarink / 2022年公開 カナダ

ykpythemind とにかく暗い部屋でずっと緊張感のある絵が続くみたいな。めちゃくちゃびっくりしたりとかグロいものが映ったりみたいなのはないけど、 2分ぐらい同じものを静止して映してるみたいなのが平気で1時間40分続くから、なんか恐ろしい映画なんですよね、これが。とにかく静のホラーで、しかもそれが完全に家の中だからとにかくクローズで。これを見たから、今回はもうちょっと外でそれをやってみるみたいなのをしてみたかったわけですな。

トモヒロツジ そう、開かれた版のSkinamarink。ただ、実は今回のロケ地だと、開けすぎてて閉じてるのと同じぐらい緊張感あるんだよね。何もないから。

ykpythemind 確かに、うん。

osd Skinamarinkが頭にあったから、今回、全部のカットについて今までの1.4倍ぐらい伸ばしてるはずですよね。 反省でよく話題に上がる、「なんかテンポ良すぎたな」みたいなのに対して結構裏を取ったというか、そこを頑張ってひっくり返すようなものを1個撮れたのは良かったんじゃないかと思います。

ykpythemind とはいえSkinamarinkも全く無の映像だったわけではなくて。途中途中で意味深なカットとかが挟まるから、意外と見れたみたいなのはあるのかもしれないから。

トモヒロツジ 今回の海もそうで、やっぱ地味にね、イカがいいんすよね。イカが落ちてるのがいいって言ったのは確かosdくんだったと思うけど。海の恐怖と言えば クトゥルフだし、クトゥルフといえばイカみたいな軟体生物なので、なんか創作の中での恐怖感に結構近くて良かったですね。画としても不気味さとキャッチーさの両立がある。

osd なんかわからないけど緊張感のある場面みたいなのって、 結構補佐的に使われがちというか、何かが起こるトリガーだったり助走として使われがちですけど、実はその助走をしてる時が1番怖いみたいな話もなんかあるとは思ってて。今回自分たちがやったのも、助走をどこまで伸ばせるかと、その助走をどれだけ主役にできるかだったというのはあるような気がしますね。

トモヒロツジ なんかね、ワンセンテンスなんだけど今まで作ってきた感じとは違う広がりがある気がするんだよな、画の中に。

ykpythemind そうそう。映像って面白いな、みたいな気持ちにもなったね。5分ぐらいで意外とコンパクトにまとまったけど、全然見れるんだよな。

トモヒロツジ これ俺だけがずっと言ってる気がするけど、今回画が強いんですよ。だから、音消して見ても怖いと俺は思ってるし、なんなら音消すとマジで最高まである。音を消して見てください。マジで最高なんで(笑)

世に出るかもしれないもう一本について

ykpythemind 我々、実はもう1本映像を撮ってきまして。2本並行して作ってたんですよね。こちらはね、ちょっとどうなるかわかんないですけども。

トモヒロツジ 世に出るかもしれないし、出ないかもしれないかもしれない。

osd めちゃくちゃ業務過多でしたね。だから、僕たちの夏が今終わったという。

トモヒロツジ 俺、今日から夏休みだよ。仕事だけでいいって、ほぼ夏休みやと思っちゃったね。

osd 仕事終わって、こっからの5時間を自分で決めれるんですか、みたいな(笑)

ykpythemind いやいや、まだ終わってないから(笑)

トモヒロツジ いつかそれが終わったら、全てをかなぐり捨てて朝まで飲む。

ykpythemind なんかもう、そういうのが必要。

ykpythemind とにかく過去イチ映像が忙しい月だったんだけど、おかげさまで、なんか撮ってる最中に成長した気がしたんだよね。なんか世界の感じ方とかがアップデートされたような気がして。そう、上達を感じたのよ。直近のは映像見せれないから、語ってもって意味ない感じなんだけど(笑)

トモヒロツジ 思ったりしたのは、撮ってる時はうーん?って思ってたのが映像になってくると確かにハマるねみたいなのがあって、ずっとカメラ握ってる人間は感じ方が1歩先行してきたなって感じはあるんだよね。

ykpythemind 俺が絵コンテ考えたってのもあるけど、結構撮る構図とかが頭入ってて、ロケハンしてないのにいい感じに決まった画が多い。映像制作チームとして次のステージには行けたような気がしたんだよ。1歩自由度が上がったというか。

osd 脚本も、直近の2つはほぼ僕のものが使われてて。それって昔撮ったL市以来だと思うんですけど。当時はどういう映像になるのか考えきれてないところとかあったんですけど、今回は小道具とか背景とか、重要な要素をしっかりチームに伝え切るみたいなのを意識しましたね。

トモヒロツジ 今回大変だった中で思ってたのは、人生限られてる中で頑張って密度上げないと、出せる創作物って限りあるよなって話で。きっち~と思っててもそのきっち~で世に出るものが1本増えるなら、まあまあ、頑張らざるを得ないよなみたいな。自分を奮い立たせるためにそう思ってたのかもしれない。

ykpythemind なんか作ってる時はこんなやることあんのかよ、ふざけんなよって気持ちになるけど、 世に出して一つ落ち着くとさ、平日仕事が始まってそれで頭パンパンなってさ、ムカつくこととかあったりとかすると、また作って発散したい気持ちがまた生まれてきて。

osd そこ回ってるんだ。

トモヒロツジ 明らかにユキトだけそのペースが俺ら2人より早いけど。ペース早すぎてパワハラやん、みたいなときあるからね。こいつだけ体力が異常すぎ。

osd 波が引く時がないですよねあんま。

ykpythemind 今日の朝とか人生に絶望してたけどね(笑)。もうおもろいことないなみたいな。

トモヒロツジ 生きづらいね。こんなにアウトプット出してるのにおもろいことないなって感情になるの。

ykpythemind もうどうしようもなくなったらとりあえずなんか立ち上げて手を動かすことにはしてて。そうすると、ドーパミンが少しずつ戻ってきて、切れかけたらまた別のことしてさ。俺、人生のこと考えて悲しくなっちゃったよ。in-factoのプロット、今多分100個ぐらいあんのに俺が生きてる間に全部実現できないって思ったらなんか本当に悲しくなっちゃって。

osd だからこそ、作り続けて、一つでも多く世に出さないとってことなのかもしれませんね。

トモヒロツジ もうすぐin-factoシーズン2と俺らが呼んでるものも終わりに近づいているので、 また年末に向けてひとつのゴールを見据えていきたいなっていう感じですね。

もうちょっとだけ話したい

ykpythemind ……映像って同じ人で作り続けるってなかなかないのかもね、と思った。

osd はいはいはいはい。

ykpythemind 撮影担当や音声担当の人とかは都度違う人雇ったりとか可能だからね。そこを同じ人に固定して、意外とチームとして強くなっていくと面白いゲームかも。

osd ですね、なんか他のチームというか、 映像制作ってみんなどういう感じでやってるんですかね。僕たちって、誰かがアイデア出して、それをいじり回して、軸に脚本誰かが書いて、で、それをまたさらにいじり回してみたいな感じで、どの工程にも3人全員の手が加わるというか、意図が加わるじゃないですか。めちゃくちゃ実は大変なことやってるんじゃないのかっていう。

トモヒロツジ いや、俺はね、逆に1番俺ら的に楽なやり方なんだと思ってるんだよね、これ。分業すればするほど、1人の責任範囲が増えた分の溝を埋めるのにかかるコミュニケーションコストがあるんだと思ってて。他のやり方聞いたら、なんかうまく作れなくなる気がした。

osd そうっすね。それはそれは確かに。

ykpythemind でもね、ちょっと他の映像チームに入って出稼ぎしてくれてもいいんすよ。osdくん。見識を広めるために。

トモヒロツジ 傭兵として、腹に爆弾巻いて行ってきてくれ。

2024/09/09 収録

すべての記事を見る