in-facto

俺たちのファウンドフッテージ

ガラケーの画質 = ロストテクノロジー

ykpythemind 今回はどんな感じでしたでしょうか。

トモヒロツジ 見返すと贅沢やなっていう気持ちになる。こんなにそれっぽい映像をたくさん見せてくれるんですか。っていう気持ちで見ている。俺は。

ykpythemind 今回はin-factoで多分初めて自分がフル原作のやつなんですよね。

osd 言われてみれば確かにそうですね。

ykpythemind 各動画のタイトルや構成もそのまんまなので、自分が思ってた感じを詰め込むことができて、すごく楽しかったっすね。

osd よかったですね、カメラ総動員作品で。

ykpythemind 新しいカメラ、4つぐらい増えてるからね。iphone4とか、 2000年代のsonyのコンデジとか。

今回使用したカメラたち。動画の画質は全然良くない。
今回使用したカメラたち。動画の画質は全然良くない。

osd 悪いやつをさらに悪くしたりとかもしてますしね。

トモヒロツジ やっぱりね、小さい映像を大きく映しても良くなくて、小さいから良いみたいなところもある気がするんですよ。

ykpythemind うん、あの時ガラケーで見てたあの感じと近い感じというか。

トモヒロツジ ガラケーで毎日ポチポチポイント貯めてダウンロードしてたお試しのAVとかのこと思い出しますね。この感じは。

ykpythemind ……携帯動画変換君とか(笑)。

トモヒロツジ あー、あったよね。3gpみたいな。大体それだったね。あの当時の違法掲示板とかにアップロードされてた、着うたサイズに切り取られた楽曲とか。

ykpythemind これ、俺たちより4歳下ぐらいのosdくんは、やっぱちょっと違うんじゃない。感覚が。

osd そうですね。自分は最初からスマホでしたし。

ykpythemind だよね。ちょうど俺らもガラケー4年ぐらい使ってたらスマホになった、みたいな感じだった気がする。

osd はいはいはい。ちょうど入れ替わりの時期だった。

トモヒロツジ いや、そう。だから、今回の映像は俺からするとネイティブなんだけど。もうちょっと世代が若くなってくると、なんか、知らないものに映るんじゃないかなって思った。

ykpythemind それこそさ、VHSとかの雰囲気みたいなものは、今でも演出として使われたりするけど、ガラケーとかの画質感って、商業作品だと出てこないよなっていう。

トモヒロツジ 鑑賞に耐えうるものではない説があるよね(笑) やっぱり映像作品の目的って、でかいスクリーンで見ることにあるような気がしてて。逆にそれで言うと、僕らが作ってる映像ってそもそもYouTube以上の画面の大きさで見ることを想定してないからこそ、結構向こう見ずな映像が撮れるというか。

osd そうっすね。今話聞いてて思い出したんですけど、A24のライトハウスって映画があって。

監督はウィッチ、ノースマン等で知られるロバート・エーガス。
監督はウィッチ、ノースマン等で知られるロバート・エーガス。

トモヒロツジ 俺めっちゃ好き。

osd これめちゃくちゃいいっすよね。画角が正方形で。映画館のめっちゃでかいスクリーンの真ん中の正方形。モノクロの動画を見るっていう。あの圧迫感というか、画面の狭さ故の表現みたいなのはかなり良かったですね。

ykpythemind ちょうど去年の夏ぐらいに、俺がやってるバンド、 猫を堕ろすの『ときめきリサーチ200X』っていう曲のMVが渋谷のWWWで上映されたことがあったんですよ。

トモヒロツジ はいはい

ykpythemind あそこのフロアってもともと映画館らしくて。割といろんな人の映像作家の作品がスクリーンに流れてる中で、俺らのMVだけ画面の大きさが1/4くらいで、なんかすげえ笑顔になっちゃった(笑)。ああ、そうだよね、あれが限界のサイズだよね、みたいな(笑)。それゆえの良さみたいなのがあったんだよなー。

トモヒロツジ ガラケーとかスマホの初期みたいな過渡期のメディアって、こうやって忘れ去られてくんだなっていう。

ykpythemind 確かにね、本当に過渡期かもしれんね。

トモヒロツジ ガラケーの写真とか動画ってさ、あんまりみんなそれを一生保管することを考えて撮ってたわけじゃないような気がするんだよな。普通のカメラと同じように思い出として撮ってたはずなんだけど、媒体自体が過渡期で不安定なものだからみんな忘れ去っていくみたいな。

osd そうっすね。フォーマットとかも乱立してたし、それを持ってきてどこで再生できるかとか、考え始めるとややこしい。

トモヒロツジ だから、今回の撮ってる映像の半分ぐらいは存在し得ない映像だとも言えるかもしれない(笑)。

存在し得ない映像の存在し得ない撮影シーン
存在し得ない映像の存在し得ない撮影シーン

ykpythemind 実在を証明できない。

トモヒロツジ まさにファウンドフッテージなのかもしれない。

ykpythemind 携帯とかの映像ってさ、なんかスキャンダラスというかさ。普段身に着けたり持ち運んだりしながら生活の延長で撮ってたっていう、そのパーソナルな要素が組み合わさって、見ていいのかわかんない映像に仕上がるというか。小学校高学年とか、中学校ぐらいの頃の、親が寝た後にパソコン立ち上げて、ブラウザでリンクをたどってったらたどり着いてしまった、アングラなサイトのニュアンスとか、そういうものを思い出して。そこに近づけようと思って色々撮ってみたりはしたので、なんか割とそうなったかなって感じがする。

ykpythemind youtubeの映像を見て思うけど、 東日本大震災の時期が時代の分かれ目だったと思う。大震災の映像とか、個人が撮ってるものがめちゃくちゃあるわけじゃん。あれぐらいから、個人が持つ動画の発信力って安定して存在し続けていてもう恒久にネット上に残りうるものになっているというか。それより手前のものは隙間にこぼれ落ちているのかも。

osd そう考えていくと、ジャンクのガラケーの中身を片っ端からさらって行ったりしたらありえない怖い映像が出てきたりしそうですよね。

ykpythemind なんか俺らの時代のファンドフッテージはやっぱこう、VHSとかなりがちなの、ちょっと甘えな気がするんだよね(笑)。保存を目的としているメディアであるという時点ですでに。

トモヒロツジ なるほど、そういうことか。17本目にして映像の指針が。俺たちの目指すファウンドフッテージの姿が(笑)。

ykpythemind まぁ古いコンデジとか、バッテリー持たなすぎるし、データ吸い出すのもくっそめんどくさいし、それで長時間の作品は作りたくないんだけど(笑)

たくさんの人と作り上げている

トモヒロツジ 今回は演者さんが5人。こんなにたくさんの人と1日にスケジュール組んで撮影なんて無理でしょって思ってたけど、なんとかなったね。

osd そうですね。しかもすごいこちらの意図を汲んでくれて。めちゃくちゃスムーズでしたね。

トモヒロツジ まず、撮影順でいくと、最初に撮ったのが「公園でひとやすみ」。ここは2人出ていただいて、YouTuber役の力徳さんは、俺が文字で表現した嫌なYouTuber像を1発で理解してくれて、1発目からフルスロットルで嫌だったのがすごく良かった。

osd いや、すごかった。マジで。

トモヒロツジ 本当に。表情の作り方とか、ぽろっとこぼれ出てくる言葉とかの、本当に嫌だなっていう感じが。

ykpythemind なんかね、常に鼻で笑ってんだよね。

トモヒロツジ そうそうそう、ちょっとバカにしてる感じが出てるんだよね。その、人のことを全般的に。

ykpythemind でも本人は全然そんな感じじゃないし。すごく物腰が柔らかい。礼儀正しくて。

トモヒロツジ 箱を抱えてたおじいさん役の森屋さんも、あんなに大きい声を出してくれるとは。あんなに人がいる公園で。力徳さんも結構素で驚いてた感じすらあったからね。パッションでした。

ykpythemind 力徳さんから台本にはない「怖っ」ってセリフが自然に出てたからね(笑)

トモヒロツジ 次は、「誕生日おめでとう」か。ここは大澤さんとほせきさん、2人出てもらって。まず妹役で出てくださったほせきさんは、場に対する瞬発力が強かった印象がとてもあります。脚本に書いてなかったことでも、空気的にこういう役柄になりそうみたいなところを想像して、動きだったりを大きく取ってくれたり、すぐ適応してくれるところがすごい撮りやすかった。

osd 一方、大澤さんは結構慣れてらっしゃるんだろうなって感じがしましたね。僕らが撮影の時に気付かなかった、ケーキはどっちに向けた方が怖いのかとか。細かく目くばせをしてたりとか、そういう細部でクオリティアップに貢献してくれている。

ykpythemind 「誕生日おめでとう」は俺が今まで撮った動画の中で1番の傑作だと思ってる(笑)。ロウソクが消えた後、本来は映像を終わる予定だったんだけど、なんかもうちょっとその後があった方がいいんじゃないかってその場で話になって、二人とも案を出しながら演技をしてくれたんだけど、特に、大澤さん。誰も座っていない、誰かが座っているはずのソファに目線をちょっとやるんだよね。 あれがすごい絶妙。

osd 別に打ち合わせとかもしてなかったですからね。

ykpythemind カメラで撮ってた俺、自然に声出てるし。

トモヒロツジ ユキト(ykpythemind)はただただ驚いて声出てるだけだから。

ykpythemind やっぱいい役者って共鳴するんですね。

osd うるさいな。

トモヒロツジ 映像の暗さとかもそうだし、 映っている人間の関係性みたいな、こう、漂ってくるものも、なんか全部がちょうどよく緊張感あるんですよ。

osd 誕生日ってテーマを持ってこれたのが結構大きいですよね。元々の脚本だと別の動画だったんですけど、ツジさんが誕生日の動画がいいんじゃないかって言い出して。

トモヒロツジ 毎回in-factoの面白いのは、1人が100パー作った作品にならないところだよね。多分誰も1人100パーでやろうと思ってないからだと思うんだけど、協業した方がなんか良くなるっていう感覚があるんだろうね。

osd そうですね。パーツを出し合って。

トモヒロツジ 協業で膨らんでたみたいなところでいくとさ、「2016年10月12日」とかは逆に言えば、協業みたいなものはほぼなくて。役者2人がきちんと求められたことを演じてくれただけ。そこがほんとに過不足なく、イメージ通りで、すっと収まってて。

osd そうですね、プロでしたね。

トモヒロツジ 特に記者役の村松さん。プロの仕事だったね。想像した通り、何も演技指導しなくても、そのセリフだったら、その動きするやろ。みたいなことを全て卒なくこなしていて。最初っからこう、リラックスしてて、いつでも行けますよみたいなところから、すっとあの感じに入ってくの、かっこよかった。

ykpythemind また仕事したいよね。ホラーって究極の嘘であるけど、究極のリアルで。だからこそ一緒に撮る人たちはとても重要で。また一緒に仕事をしたいと思える人たちと映像を作れているのはとてもいいことだなと思う。

ドラマを撮らなければいけないのか

トモヒロツジ 今回の映像、6つのテーマで8分っていう、かなり贅沢な撮り方をしてて。やっぱりどうしてもワンテーマで10分の作品を作ろうとすると1、少なからず人の心の動きだったりとか、そういったものが重要になってくる。でも3人とも、そういう部分にまったく興味ないんじゃないかと思っている(笑)。

ykpythemind 割と長いスパンでの人の心の動きとかも興味ないよ。普通に人って10秒ぐらいで気持ち変わるしなあ、みたいな。

トモヒロツジ そう、だから長く見据えたものの作り方が苦手なような気がしてて。1分、2分の映像が6つって、シンプルになんかサビだけ詰め込めるから楽しかったってのはあるかもしれない。撮影として。

osd 確かに全部美味しいところ出せたかもですね。

ykpythemind ファストコアってこと。

トモヒロツジ 快速東京ってことなんだ。

ykpythemind 割ともうin-facto シーズン2も中盤戦ぐらいに来たんじゃないかなと思ってるんですけど、ちょっと記録映像系が続いたから、やっぱドラマとかここで撮れるとね、最高なんじゃないかと思うんですけど。

トモヒロツジ いや、まあね。

ykpythemind なんかね、1番自信ないんよな。ドラマで手応えを感じている作品がもしかしたら過去にないかもしれない。

トモヒロツジ もちろん世に出してる以上は悪いものだと思ってないけど、上位に入ってくるものにドラマがあるかと言われると、それこそ俺は入ってくるとしたら「Delivery」ぐらいかなって。でも、着眼点はちょっとドラマではないんだよね。結局何が好きって、画角とかだからさ、あんまりドラマ部分じゃない。

osd ドラマで言うと、「椅子」あるじゃないですか。あの会話劇みたいなの、どっちかっていうと、こっち側でコントロールしたってよりかは、演者さんが広げてくれたみたいな、あると思うんですけど。ああいう”見れる”会話劇みたいなのが意図的に作れるようになると、結構ドラマとしていいものになるイメージがあります。

トモヒロツジ 間違いない。

ykpythemind 確かに。「椅子」ってドラマっぽいといえばドラマっぽい。

トモヒロツジ なんでドラマってたくさんのカメラで撮ってるのかなっていうところが、 なんか今の話に関係してるような気がしてて。人と人との掛け合いで生まれるグルーヴとか、その気持ちよさみたいなのって、結構ナマモノだから。全部脚本通りなぞってできるものじゃなくて、このテイクだったからいいみたいなのがあって、それを撮り逃さないためにいっぱいカメラ並べているみたいなことなのかもしれないよな。

ykpythemind 確かに俺らもドラマ撮った後の編集時になって初めて、素材足りねえなあってなる時とかあるし。

トモヒロツジ そうだね。そこも踏まえて、なんか撮り方次第かもしれないよな。別に全部手で持ってカメラ動かなきゃいけない必要があるわけでもないかもしれないから。決められた空間の中で、定点カメラ4つで作るドラマとかも、もしかしたらありなのかもしれない。

ykpythemind …というところで、この辺で終わりましょうか! お疲れ様でした。

osd はい。また次の作品で。

2024/07/10 収録

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