公共物としての傘
藤本薪 はい、オッケー。今回のお話をなぜ撮ることになったかって話だね。
トモヒロツジ えーっと。自分は最近全然プロットを上げていないなぁと思って色々考えてたんだけど、なんかこう、人がアクセスできる場所に置いといたものが、誰かの悪意によってひどいことになって自分にも振りかかってくる、みたいなものが生活と近くて嫌だなと思ってて。
藤本薪 うん。
トモヒロツジ 傘って、濡れて持ち帰った時には玄関の外に置きがちだから、それを放置してたら誰かに悪いことに使われそうってのが出発点。
藤本薪 なるほどね、日常に潜むっていうところと社会において公共物に近いような、他者と触れ合って交わっている部分のものがそもそも気持ち悪いみたいな考え方だよね。
トモヒロツジ そうそう。自分のパーソナルスペースと、公共のパブリックスペースが交わる辺りって結構グラデーションがあると思ってて、ちょうどそこに人が侵入してきた時に、想定外の挙動をされると怖いんだなっていうのが根幹かも。
ykpythemind なんか傘っていうものって、所有してる感ないよね。
トモヒロツジ 傘って、公共物とまではいかないけど、普通に善良に生活してる人でも、突然雨に降られたから傘パクってきたみたいなこと言い出す感じとかあるよね。所有性があんまり強くないものだね。で、あともう1つのポイントとして、傘の形って結構暴力的なんだよね、尖ってて。それで暴力を振るうのが想像できたのがあったかも。
ykpythemind これあれじゃない?「アンブレラマン」みたいな。
藤本薪 え?なにそれ。
ykpythemind いま作ったキャラクター(笑)
トモヒロツジ 「鉄男」みたいなこと言ってる?(笑)
藤本薪 想像力で、日常で使うものに狂気を見いだせるみたいなのあるかもね。
映像ボリュームのコントロール
藤本薪 前回のドラマ風の作品「Delivery」は映像の技術不足を独白って形で補ってた部分があったと思うんだけど、今回独白のナレーションを入れないでやるって決めた段階で、結構話を描ききるのが難しいなって思った。
ykpythemind うん。
藤本薪 プロットにある内容は全部映像にはしたんだけど、心情だったり、起きた事実を伝えていくのが難しかったな今回。
ykpythemind 「Delivery」は再現VTRっぽいしもう少しドラマっぽくしたいよねってのはテーマだった。その上で、ある程度尺があるイメージで撮り始めたんだけど、1日撮影して、これは普通に10分ぐらいあんじゃね?とか言いながら編集したら、結果4分しかなくて(笑)なんか思ったよりサクサク進むねって話になって、うわ、これでもまだ足りねえのかー、とはなったよね。
藤本薪 何を足せばよかったのか、まだわかってない。
トモヒロツジ やっぱり絵コンテができたときに、カットの数で大体の尺を想像しちゃうところがあるなって。実はぎゅっと縮めると、ストーリー自体は短いっていう視点が抜け落ちてたのかも。
ykpythemind まあ想定より短くなったのは作品の価値を毀損してはないと思うんだけども、制作側として今回はボリューム感をもうちょっと出したいって思ってたところだから、そこをコントロールしきれなかったことに反省感があるって感じですかね。
藤本薪 むしろ4分間でよりスマートに描き切るみたいな軸に切った方がよかったのかな。
トモヒロツジ 初めから4分のものを作ろう、と思ったら多分4分にするなりに、もっと濃縮した何かを書かなきゃいけないかもね。
藤本薪 ペースの話もあるなと思ってて、今回は10分のペースで進んでいく4分の話になっちゃったみたいなところある(笑)
ykpythemind 映像の導入部は結構ゆったり書いてんだよね。今回は後輩のosdくんに出てもらったんだけど、osdくんが出てくるのが1日目だけだったから。2人の会話で映像のテンポが作られる、みたいなのが導入部にしかなかった。
トモヒロツジ osdくん、求められているものへの理解度高かった。直前でお願いしたからあんまり役を振れなかったんだけど、もっと出てもらえばよかったな。(笑)
ykpythemind あれじゃない?主人公の藤本くんの家の前と、osdくんの家の前の双方に毎日バキバキで血まみれの傘が届けられていて、その傘でバトルするとかはどう?
藤本薪 唐突……!
トモヒロツジ 斬魄刀 ※1 みたいな話してる?(笑)
※1 斬魄刀とは、漫画「BLEACH」に登場する刀である。元々異形の姿をして様々な能力を持っていた虚の能力を、刀の形に凝縮して切り離したもの。 (ニコニコ大百科「斬魄刀」より)
ykpythemind このホラー、他の広げ方するとしたらどういうのあったかなって。
トモヒロツジ あーなるほどね。実はosdくんと藤本くんが相互に傘を置きに行ってるとか。
ykpythemind 傘を戦わせに行ってるわけね。
外への広がり
ykpythemind 今回、僕らの中での反省点みたいなものがふつふつと湧いていて、その話をしちゃったんだけど、普通によかったところとかってありますか。
トモヒロツジ 1つ大きかったのは、怖い以外のものを撮れたことかな。今まで怖い時間と、怖くするための時間を撮ってたから。それと関係のない日常のシーンだったり、ちょっとギャグというか、怖さ以外のものでまた1つバリエーションを作れたという意味でやって良かったな。
藤本薪 他には、自分ら3人以外の人の手をたくさん借りれたところかな。
藤本薪 その1つがosdくんだし、最終日の手紙の読み上げをクラウドワークスで担当してくれた声優さんとかもね。
トモヒロツジ 友達の中から理想の声の女性を探したけど誰もいなくて、クラウドワークスで依頼したらすぐ上がってきて、こういう解決策ってあったんだみたいな。
ykpythemind なんかすごいよね、顔を合わさずに作品が組み立てられるっていう。演技とかもさ、そのうちオンラインで演技するみたいな感じになってったりするんじゃない?
藤本薪 テクノロジーの話だ。
ykpythemind そう。モーションキャプチャで。Vtuberみたいなやつ。あれで任意の演技をしてもらってさ。一つの場所に皆が集まって撮るのって、ある意味楽だけど、難しいじゃん。それをリモートで飛び越える方法があったら、もっと作品を作りやすくなるよなって。
トモヒロツジ あと面白かったところとしては、自分ら3人ともエンディングは洋画のホラーのエンディングとかで突然流れるハードロックみたいなのを想像していて。それを実際サワダ ※2 に頼んでみたら、これも即納してくれて。で、その音源も良かったから解像度がリアルになったし、効果音を足していく方向性もその音楽が中心になったから、外からのアクションで物事が組み上がっていった感じで面白かった。
ykpythemind そう。大体の効果音をギターの音にしたし。
トモヒロツジ それで本当に怖いのかなって不安になってたとこではあるけど(笑)
ykpythemind この話はちょっとロックっぽい雰囲気なんだよね。割とカラッとしてる雰囲気もあるし。「土下座」みたいなおどろおどろしい話だったとしたら、あの最後のハードロックはもはや意味不明じゃない?……そうは思ったけどめちゃストイックに怖い「輪廻」※3 とかは扇愛奈さんのちょっとコミカルな感じのロックな主題歌なんだよな(笑)
※3 『輪廻』(りんね)は、清水崇監督、優香主演による日本のホラー映画。 (Wikipedia日本語版「輪廻 (映画)」 より)
藤本薪 劇中での音楽的な統一感は大事かもね。ここではギター、ここではシンセ、みたいになったら、ちょっと世界観が壊れるかも。
ykpythemind そういえば、もっと映像をコテコテな色にしても良かったかも。
トモヒロツジ 割とギラッとさせたつもりだったんだけど、iPhoneで見たらなんか割と落ち着いてるなって感じはしたね。
藤本薪 なんか僕らが着てる服とかの色味による影響もありそう。外国の作品とか、結構コテコテな色に見えたりするから。
ykpythemind 日本の家の内装とかって落ち着いてる色なのかも?
トモヒロツジ あーまさに、白物家電って言ったりするもんね。人の家の中って映像にすると、なんか色味ないなって思ったかも。
ykpythemind 今回、引きで全体を映す画を撮りたいっていうのを自分が主張して、部屋全体を割と映せるようなカットを入れたんだよね。もうちょっと引きたかったけど、それ以上引くと雑多な感じに見えたからやめたのは発見だった。
トモヒロツジ 多分、家が小さいのも多分あると思うんだけど、映えない。
藤本薪 うん、うん。
トモヒロツジ 映像に出てくる家の風景って、生活感がないぐらい情報量が減らされてる気もしてきた。多分本当にその家の中で生活してるまま映したら、背景の要素が多すぎて集中できない気がする。
藤本薪 背景の密度や情報量って、置くものの統一感みたいな話だと思うよ。多少ごちゃっとしてないと日本らしさが出ないから、ごちゃっとなっている上で、どう統一感を出すかみたいな話だと思った。統一感が無いとそれはそれで生活感が出てきちゃう。生活感はドキュメンタリーとか資料映像だったら良いけど、ドラマだと許せない感じになるんだろうね。
ykpythemind … さて、今回のin-factoポイントはいかがでしょうか。
トモヒロツジ ネクストコナンズヒントみたいな話してる?
ykpythemind 単純に点数をつけてほしい。
藤本薪 うん、満点が星5つだとして。
トモヒロツジ オチで逆転するところを個人的に評価してあげて、3.5ポイントかな!
藤本薪 じゃあ3.5でつけておくね(笑)また次回も頑張ります。
2023/1/25 収録