in-facto

本作はファウンドフッテージではございません

コミュニケーションの空気感

osd 今回は藤本さんが主に脚本をした作品でした。

藤本薪 そうですね。初めに言っとかなきゃいけないこととしては「本作はファウンドフッテージではございません」という。

ykpythemind デカデカと大文字で書いとかないと。

藤本薪 デカデカと書くと、逆に……?

トモヒロツジ 今回はあんまり今までにない感じでしたね。何人かの人が同時に出てきて。

osd そうですね。シンプルに登場人物が多い作品みたいなのは避けてたみたいなところありますね。芯があって枝葉のある会話劇みたいなものが、あんまり僕たちがやってこなかったところなので、今までとまた違った質感の作品になりました。

藤本薪 結果として今回in-facto史上最長(21分)の作品になったと……

トモヒロツジ うん、なんかね、ストーリーを知ってる側からすると、20分もあるんだって感じがするけど。

トモヒロツジ それぐらい、本来は人間のコミュニケーションって、空気感の時間があるっていうことなんだよ。

ykpythemind 俺たちのコミュニケーションは空気感ないってこと?(笑)

トモヒロツジ 急に強い被害者意識が出てきた。

藤本薪 そうじゃなくて、本当に4コマ漫画みたいに物語だけを伝えようと思ってたら、もっと短くもできるよねって話よね。

トモヒロツジ そうね。やっぱり今回は役者が多いっていう演技の変数の増えた分、カメラはとにかく固定するっていうところで撮影を時間内に終わらせられるようにバランスを取っていたかも。まあ、狙ってそうしたというよりは、結果そうなったって感じだと思うけど。

藤本薪 確かに本当にドラマみたいにしたかったら、一言二言でカットを切るけど、それを思うと気が遠くなる。ただ今回はそれをせずに、少ない画角でリアルなテンポの会話が結構続く作品になっていて、その点は演劇っぽいテイストの作品になった。それと今回はかなり役者の皆さんの演技に助けられた感じはありますね。

トモヒロツジ 確かにそうね。なんか最後の詰めは、その演劇っぽい雰囲気を、どういうバランス感にするかみたいな話だったような。

藤本薪 僕は今回の演劇っぽい雰囲気が良い感じになったなと思ってて。実際今回は5個のシーンで構成されていて、そしてそれは本当にその尺でカットを割らずに撮っているので、その点においては脚色が少なくてあんまり映像的ではないかもしれないね。

osd あとは藤本さんじゃない人が脚本を書くと「何かを起こしてそれを見せる」みたいな作品になることが多くなる。けどそれに対して、今回の雑談みたいな、その会話とかで何かが変わる・起こるわけではないけど、見ていられる会話劇になっているということが今回のいつもと違うポイントかなとか思ったりしましたね。

ykpythemind 確かに。そして、いまその空気感を1番作りやすいのが、モキュメンタリーなんじゃないかなと思っていて。でも、そこをモキュメンタリーにしなかったのは、1つ自分たちらしさであるような気がする。

トモヒロツジ 逆張りだよね。

藤本薪 まったく逆張りが大好きなんだから。

ほっこりホラー

藤本薪 一応説明すると、今回の本はツジくんが元々出した案を僕が勝手に短編小説にして、勝手に文学フリマで出したやつを映像にしたっていう流れです。

トモヒロツジ うん。剽窃されているという。(笑)元々の俺の原案はホラー的なことが起きている映像とそうでない映像を交互に流して、どこが検閲されているかを考えるみたいなネタだったんだけどだいぶ別ものになってた。

藤本薪 短編小説ができた段階でツジくんに一応許可取ったけど、出来上がってから見せてるから、ダメだよとは言えない状況にしてて……笑そういえば今回、話自体はもう1から10まで小説ができていて、それを映像にするっていう方向は、今まであんまやってなかったかもしれないですね。

ykpythemind 確かにそうだね。今回はせっかく原作があるっていうのに、藤本くんが改めて作った絵コンテだとなんかちょっと迷走気味な脚色されていて、なぜか俺が原作側にちょっと戻すみたいな謎の工程があった。

トモヒロツジ うん、藤本くんが無理にホラーにしようとした結果、なんか陳腐なことがいっぱい起き始めてて、待て待て待て(笑) と。原作のソフトな雰囲気を大事にしようぜみたいな話をした記憶はあるよね。

藤本薪 僕はせっかく映像にする以上は観ててインパクトがあって怖いものにしたくて……それにin-factoで映像にするなら全く小説と同じものを再現しようとは全然思ってなくて、設定をいじったり、何が起きるかをいじったりは実際に色々考えた結果迷走してた(笑)

ykpythemind 今回はホラーでありつつもウェットな人間ドラマに仕上がったね。現場で演じてもらってるのを観た時にすごいほっこりする気持ちになったんだよね。

藤本薪 僕も、現場で観ててツーショットのQを消すシーンとかは胸を引き裂かれそうになった。それにまどかはずっと怖かった。学生の時こういう女子怖かったなぁっていう感じ。演技ってすごい。

みなさんはどういった高校生活を送ってきましたか
みなさんはどういった高校生活を送ってきましたか

トモヒロツジ 確かに。それぞれの役回りから出るであろう空気感が出てたね。だから今回はドラマ的な部分の比重が多い分、ホラーとしてのバランスの取り方をすごく考えていて。俺はこれまでやってきた中で「これくらい色々起こさないとホラー的じゃないのか?」みたいにとか悩むことがあったけど、もっと脚本に準じていけばいい作品になるんだなという感じがした。

osd 確かに。今回この脚本の撮り方について話す時に『椅子』の話が結構出てきていて。『椅子』が僕たちの作品の中で一番見られているものになるんですけど、あれもそんなにめっちゃ怖いことがどんどん起こるわけではなくて、その物語の良さと、それを映像に落とし込んだ時の良さみたいなものをどのように今回の『Retouch』でも出すかというのは考えました。でも全く椅子と同じことはしたくないし……

トモヒロツジ 『Retouch』はぱっと見は椅子と同じ系統の作品だって思うんだけど、全体像を見た時に違う肌感になっていればいいなとは考えてた。一応、過去に撮ったものと同じものは意識して撮らないようにとは考えてはいるので。

藤本薪 首を絞めることを言った。

トモヒロツジ いや、でもそれはそうだよ。

藤本薪 焼き回ししてもしょうがないですからね。

トモヒロツジ 逆に僕らが同じものを撮ってるとすれば、それには意図があるものだということで。

ykpythemind 同じ構成のものを取るのっていいな。

トモヒロツジ 最近になって、バンドとかが『〇〇 part2』みたいな曲を作るのすごい好きになってきた。

藤本薪 前もソルファの話してなかった?

ykpythemind もう本当に同じことばっか言って。でも『〇〇 part2』を撮るってのは良いね。俺は『天使化 part2』を撮りたいです。

藤本薪 僕は『天使化 零』を撮りたい。

ykpythemind すごい、両側に展開できる。

藤本薪 でも実際、『天使化』は大きな世界観のファウンドフッテージの一つとして捉えられるし、あの世界観にはその懐が全然あると思う。

トモヒロツジ 確かに。箱の中しか映らないという、一番画が狭いおかげで、その画の外側にはまだまだ余白があるのか。

osd 全然いけますね。

トモヒロツジ また飯を絶って痩せるか。

歪んだ祝祭性

ykpythemind 今回は素うどんみたいな作品を作ったから、次はなんかこってりしまくった爆弾みたいなやつ撮りたいな。

トモヒロツジ そうね。最近好きなワードというか概念をラジオで聞いてきて、そのニュアンスを入れたいなという気持ちがある。Dos Monos※1というヒップホップユニットのpodcastの中で、メンバーのTaiTanさんが話してた概念なんだけど。

※1 Dos Monos(ドスモノス)は、中高の同級生である荘子it(ソウシット)、TaiTan(タイタン)、没 aka NGS(ボツ・エーケーエー・エヌジーエス)の3人からなるヒップホップトリオ。(Dos Monos - Wikipediaより)

藤本薪 脳盗の人だね。

トモヒロツジ 音楽のライブのことを、”歪んだ祝祭性”みたいな言葉で表していて、つまりニュアンスとしては『ミッドサマー ※2』みたいな感じだと思う。その湧き立つような歪んだ爆発力みたいな感覚を映像に落とし込めたら面白そうだなと。

※2 アリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。 (映画.com『ミッドサマー』 )より)

osd そういうのって結構、映像としての細部が肝だと思うし、自分たちには難しそうで手が出せなかったみたいなところはありますね。

トモヒロツジ 実際そのラジオで本人も「その祝祭が作られたものだってわかると冷めちゃう」って言ってて、確かにそれは本当にそうだと思うんだよね。映像でそういう質感が出せると、また深みが出そうだなみたいなことを思いながら聞いてた。

藤本薪 そういう夜ってあるよね。

トモヒロツジ たしかに。祝祭性を得ている夜。突如として沸き立つ全能性みたいな。

藤本薪 でもそういうのって求めに行っちゃうとダメなんだよね。

トモヒロツジ そうなのよ。大体そういうのって求めにいくと出てこなくて、偶然そういったすごい爆発力を目撃するとうわーーってなるみたいな事はあるよね。

藤本薪 それってある種、今モキュメンタリーが流行ってるのにも共通してると僕は感じてる。その”物語”以上に”事件”を見ているんじゃないかって感覚がある。その事件の一員になったみたいな感覚を求めているんじゃないかって思う。

トモヒロツジ 祝祭というか、一体感みたいな?

藤本薪 そうそう。たとえばテレビで突然モキュメンタリーの番組が流れていて、「これ何も知らない子供が見たらどう思うんだろう」みたいなヤバさ。そう言ったものをみんな求めている結果が今のこの祭りみたいな感じで、それを再生産しようとみんなしている。でも、辻くんは言っているのはそれをメタではなく映像の中で起こしたいってことよね。

トモヒロツジ なんか、モキュメンタリーもそうだけど、今ってその熱狂を作品自体ではなく、その作品を取り巻く構造で引き起こそうとしていると思っていて。だから今回敢えて我々が「モキュメンタリーじゃありません」って言い切ったことってその仕組み頼りなことに対して、思うところがあったんじゃないかって思うんですよね。つまり、ちゃんとこの映像一つで楽しめますよ。外側の熱狂ではなくて、鑑賞したあなたの中の熱狂で完結するものですよという提示がしたかったのかもしれない。

ykpythemind おー

藤本薪 『Retouch』が背負わされましたね(笑)モキュメンタリーブームへのアンチテーゼを

トモヒロツジ いや、別に俺そんなに強い気持ちはないよ(笑)そもそもそんなに作品をジャンルで考えたことないから。

ykpythemind でもそういう面で言うと、なんか半分ぐらいの人はモキュメンタリーだって思いそうな感じあるよね。

藤本薪 映像の質感的にそう思ってしまうのも無理はないとは思う。

ykpythemind でも、そういったことが作り手として気になっちゃうのも、そういった視点が受け手の中にあるからだと思う。「これってどういう構造の映像?」みたいなことが気になっちゃう。でも今回我々はそれはそこまで重要じゃないなと思って、良い塩梅で手放せたと思う。

藤本薪 本当にちゃんとドラマとして『Retouch』を撮ることもできたけど、そうしなかった理由はちゃんとあるし。ドラマではどうしても神の視点になるけど、今回の画角にすることによって、神視点ではなく、彼女たちと近い目線で見れるっていう良さがある。

ykpythemind そうそう、別にファウンドフッテージであることを誤認させたいとかではないし。

トモヒロツジ あとやっぱり、今回の撮り方にすることによって画角が綺麗に決まってる構図になっていて、それは今回の監視カメラ的なカメラワークだからできたことだよね。野暮ったいカメラの置き方ではなく敢えて綺麗な画角にしてるし、終盤で明らかにおかしいライティングの変わり方とかもしてるけど、それも俺らが整合性よりも”印象”を優先した結果であって……つまり俺らが思う温度感で、いろんな技法を使って最大限に演出したっていう感じで捉えていただければ。

『Retouch』のワンシーン。ファウンドフッテージものとは違った質感を目指した。
『Retouch』のワンシーン。ファウンドフッテージものとは違った質感を目指した。

藤本薪 また演劇の話ばっかりして申し訳ないけど、演劇だと同じ椅子でもある時は椅子として使ったり、ある時は机として使ったりみたいな、そういう見せ方があるけど、それに近い許容みたいな話で、ライティングの話も別に「誰かが入ってきて照明変えたのか?」とかそういう話ではなくて、単に僕らがそうした方が良いと思ったからそうしたわけであって、そういうことが許される映像作品があっても良いんじゃないかと思うんです。

ykpythemind 誰に対しての主張?(笑)

藤本薪 怒ってこのページを見に来てる人に向けて!!

ykpythemind 今回、本当に美味しいところはそこじゃないからね。まあもちろん。俺らのそこの作り方が下手であんま没入できないとか、そういったことは多分にあるんだろうけど。

トモヒロツジ うん。そもそも今回はね、"本"を味わってほしい話だと思うのでね。

osd 今回の作品はラストどう締めるかを結構悩んだんですけど、全体通して観た時の”読後感”というか、観た後の自分の状態が一番美味しい作品なのかなと思っていて、そこがこの物語の核なのかなって思うんですよね。なのでそういうのがちゃんと伝わったらめっちゃ嬉しいなって自分は思いますね。

ykpythemind 確かに。それに今回も1つの回答がある話ではないと思う。大筋の8割くらいの解釈はin-facto内で共有してるけど、完全に一致はしてないと思う。ハッピーエンドかバッドエンドなのかもちょっとよくわからないなっていう塩梅だし。

トモヒロツジ それぞれ思うように感じてくれたらいいんじゃないでしょうか。

藤本薪 ただ、「なにが起きたか」については、よく映像を見たらわかるように作ってはいるはず。あと、Qとひかりの過去について知りたい方は、私、Boothで小説を売ってるので……

Booth - 否が応でも / 藤本薪

ykpythemind 宣伝だ!

藤本薪 もちろん映像と小説とは別物なので、映像は映像として完結した作品として楽しんでいただく前提ですのでね……

ykpythemind 今回技法の話が多かったね。

トモヒロツジ たまにはこういう回があってもいいんじゃないでしょうか。

ykpythemind じゃあまた次回もお楽しみに。

オフショット
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2025/07/29 収録

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